水は1日どれだけ必要か — 食事摂取基準が目安量を定めなかった理由と、2.5リットルの内訳
1日に必要な水分量を調べると、2リットル、1.2リットル、2.5リットルといった数字が出てきます。ところが厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」には、水の目安量が載っていません。参考資料として1項が置かれているだけです。
流通している数字の出どころと、原典に書かれていないことを整理します。
食事摂取基準は、水の目安量を「定めず」と書いている
2025年版の報告書で水を扱っているのは「各論:(参考)水」という節です。表題の(参考)は体裁の問題ではなく、節の末尾にこう明記されています。水の目安量は定めず、本項は参考資料に留めることとした、と。
理由は次の3点です。
- 推定式には身体活動レベルも独立変数として含まれるが、日本の代表集団における水の代謝回転量を身体活動レベル別に報告した研究がない
- その式の妥当性や、利用時の注意点に関する研究も十分ではない
- 小児は推定式を求める試みが研究の途上で、目安量を算定する情報が整っていない
推奨量や目標量が表へ載る他の栄養素とは、扱いが一段違います。国として示せる数値基準がまだない、というのが現状です。
推定された日本人の水摂取量は、男性で約2,600〜2,750mL
目安量を定めなかった一方で、推定値そのものは示されています。二重標識水法で測定した水の代謝回転量の推定式を、平成28年国民健康・栄養調査の参加者(15歳以上)に当てはめた研究の結果です。
年齢区分ごとの平均値は、男性が約2,600〜2,750mL/日、女性が約2,200〜2,350mL/日の範囲にありました。報告書は「目安量はおそらくこの付近にあるものと考えられる」と書いています。最も低いのは70歳以上で、男性2,318mL、女性2,088mLです。
ただし同じ節に注記があります。この方法で得られる値はあくまでも集団の推定値であり、方法の妥当性については更なる検証が必要で、得られる値は必要量ではない。水の欠乏状態などに陥っていないのであれば、むしろ目安量に相当する値と考えるのが妥当であろう、と。
この数値は「これだけ摂らないと足りない」線ではなく、不足していない人たちが結果として摂っていた量です。
2.5リットルの内訳に、汗は含まれていない
「1日2.5リットル」の出どころは、環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」の水分出納の図です。穏やかな環境で普通の生活をしている場合、1日当たりの摂取量と排泄量は体重70kgの人で2.5リットルとされています。摂取の側は食事、飲み水、代謝水(体内で作られる水)。排泄の側は尿、便、呼気などです。
見落としやすいのはここです。マニュアルはこの排泄量に汗の量は含まれていないと明記しています。大量の発汗がある場合の補給の目安は体重減少量(発汗量)の7〜8割程度で、塩分濃度0.1〜0.2%程度の飲料が薦められています。
同じマニュアルは、飲料として摂取すべき量(食事等に含まれる水分を除く)を1日あたり1.2リットルとしています。「1.2リットル」はこちらです。2.5リットルと競合する数字ではなく、総量と飲料分という関係にあります。ただし2.5リットルは体重70kgを前提に置いた値です。体内の水分量は体重の50〜80%を占めるため、体格を無視して一律に当てはめられる数字ではありません。
日本人は水の約半分を食事から摂っている
水の摂取源の内訳は国によって違います。報告書が参考として挙げるフランスとイギリスの調査では、食物由来が約20〜40%、飲料由来が約60〜80%でした。
日本人を対象にした16日間食事記録法の調査(30〜76歳、男女各121人)では、この比率がほぼ半々になります。食物(固形物及び半固形物)由来が51%、飲物(液体)由来が49%。摂取量そのものは男性2,423g/日、女性2,037g/日でした。
報告書はこの差を、日本人が水の含有量が「パン」よりも高い「めし」と「麺類」を多く摂取するためだと説明しています。主食の形が水分の入り口を変えている、ということです。十分な水摂取量の確保には飲料だけでなく食物からの摂取も重要で、熱中症の予防や災害時の食事管理でも必要な考え方だ、と続きます。飲料の記録だけで充足を判断すると半分を見落とす、ということでもあります。
「たくさん飲めば健康にいい」はどこまで確かめられているか
報告書はこの点について率直です。十分な量の水の習慣的摂取が健康維持に好ましいとする考えは広く存在するが、その科学的根拠は必ずしも明確ではない、と書いています。
- 腎結石・尿管結石:発症予防に関していくつかの報告が存在する
- 便秘:いくつかの研究があるものの、結果は必ずしも一致していない
- 熱中症:予防では水の十分な摂取が、初期治療では水及び電解質の十分な補充が、それぞれ重要であると認められている
ここに挙がっていない項目について、報告書の記述から判断できることはありません。目安量が定められていない以上、1日の上限として示された数値もありません。
飲み物の種類については補足が1点あります。熱中症環境保健マニュアルは、どのような種類の酒であってもアルコールは尿の量を増やして体内の水分を排泄するため、汗で失われた水分をビールなどで補給しようとする考え方は誤りだとしています(お酒のカロリーはどう計算されるか)。
CaRootで記録できること、できないこと
CaRootには水分記録の機能があり、飲んだ量をその場で足していくと1日の合計と日ごとの推移が残ります。
先に限界を書いておくと、記録できるのは飲料として口にした分だけです。日本人の水摂取量は約半分が食事由来なので、この合計は総水分摂取量ではありません。比較する相手は2.5リットルではなく、飲料分の目安の1.2リットルです。AIスキャンやバーコードスキャンが返すのはカロリーとPFCで、料理の水分を足し上げる機能はありません。
この機能が実際に役に立つのは、体重の読み方のほうです。日々の体重が上下する主な要因は水分と消化管の内容物で(体重は毎日ぶれる)、水分と体重を同じカレンダー上に並べておくと、前日差がどちらに由来するのか見当がつきます。達成すべき目標値を追う機能というより、体重の変動を説明する補助線として使うほうが実用的です。
参考
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 — https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
- 同報告書 各論:(参考)水 — https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316470.pdf
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」Ⅲ — https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/envman/3-1.pdf
- 環境省「健康のため水を飲もう」推進運動 — https://www.env.go.jp/water/water_supply/nomou/index.html
- Watanabe D, et al. Nutr J. 2023;22(1):64. — https://nutritionj.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12937-023-00896-z
この記事は一般的な栄養情報の解説です。特定の疾患の治療や食事療法、水分摂取の制限や指示については、医師や管理栄養士にご相談ください。
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