たんぱく質は1日何g必要か — 推奨量と目標量は別の基準という話
「たんぱく質は1日何グラム必要か」を調べると、60g、体重×1g、体重×2gと、ばらばらの数字が出てきます。参照している基準が違うためです。厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」には、たんぱく質について性格の異なる2つの数字が載っています。グラムで示される推奨量と、総エネルギーに占める割合で示される目標量です。
結論を先に書くと、報告書はこの2つについて「どちらか一方を満たす」のではなく「推奨量を満たした上で目標量を満たす」と明記しています。
推奨量は成人男性65g、女性50g
食事摂取基準(2025年版)の数値は次のとおりです。単位はg/日です。
- 18〜29歳・30〜49歳・50〜64歳:推奨量 男性65g/女性50g(推定平均必要量 男性50g/女性40g)
- 65〜74歳・75歳以上:推奨量 男性60g/女性50g(推定平均必要量 男性50g/女性40g)
推定平均必要量は、その集団の半数が必要量を満たすと推定される量で、個人が目指す値ではありません。目指す側の数字は推奨量です。妊婦には付加量が設定されており、初期+0g、中期+5g、後期+25g、授乳婦は+20gです。
65gという数字の出どころ
推奨量は観察された摂取量の平均ではなく、次の手順で組み立てられた値です。
- 窒素出納法によるたんぱく質維持必要量を0.66 g/kg体重/日とする。根拠は15〜84歳を対象とした28研究・348人のメタ・アナリシス(95%信頼区間0.64〜0.68)で、1歳以上の全年齢区分に男女とも同じ値を用いる。
- この測定は良質な動物性たんぱく質で行われている。日常の混合食では利用効率が落ちるため、18歳以上の利用効率を90%と見積もり、0.66÷0.9=0.73 g/kg体重/日とする。
- これに参照体重を掛けて1人1日あたりのグラム数とする。成人ではこれがそのまま推定平均必要量になる(新生組織の蓄積分が加わるのは小児と妊婦のみ)。
- 推奨量=推定平均必要量×推奨量算定係数1.25(変動係数12.5%)。端数は四捨五入ではなく切上げで処理されている。
同じ手順を自分の体重に当てはめると、0.73×1.25=約0.91 g/kg体重/日という水準になります。体重60kgなら約55g、70kgなら約64gです。ただし推奨量は参照体重に基づいて算定された値なので、個人の体重に機械的に掛けた数字は目安にとどまります。
出発点の0.66も確定した定数ではありません。報告書は、近年の指標アミノ酸酸化法による測定では一様に高い値が出ていることに触れた上で、研究の数と質が十分でないため今回は採用しなかった、としています。
推奨量と目標量は別の基準
もう一方の数字が目標量です。こちらはグラムではなく%エネルギーで示され、18〜49歳で13〜20%、50〜64歳で14〜20%、65歳以上で15〜20%です。この指標の全体像はPFCバランスの目標量の記事で扱っています。
報告書は両者の関係をはっきり書いています。「推奨量と目標量のそれぞれの定義から考えて、そのいずれか一方を満たすのではなく、推奨量を満たした上で、主な生活習慣病やフレイルの発症予防を目的とする目標量を満たさなければならない」。
2つは重ならない水準に置かれています。1〜64歳について、身体活動レベル「低い」の推定エネルギー必要量で推奨量(g/日)を%エネルギーに換算すると、最も高くなる区分でも11.8%エネルギーです。推奨量を満たすだけでは、目標量の下限13%には届きません。
上限は決まっていない — ただし
たんぱく質には耐容上限量がどの年齢区分にも設定されていません。根拠として挙げられているのは、健康な者を対象にしたシステマティック・レビューが35%エネルギー未満であれば腎機能を低下させることはないだろうと結論づけていること、20%エネルギー以上(または1.5 g/kg体重/日以上)の摂取が糸球体濾過率に与える影響を検討したメタ・アナリシスで有意な違いが観察されなかったこと、2023年のアンブレラレビューでも腎疾患の発症リスクを高めるという結論には至らなかったことです。上限量を設定し得る十分かつ明確な根拠がないため設定しない、という書き方です。
害が確認されていないことと、多く摂るほど良いことは別です。報告書は同じ節で、レジスタンストレーニング期の成人を対象としたメタ・アナリシスで1.6 g/kg体重/日以上を摂取しても除脂肪量の増大への効果は得られない可能性が高いことを挙げ、「上限のないたんぱく質の摂取が健康増進に有益な効果をもたらすわけではない点には注意が必要である」と書いています。
一方、目標量の上限20%エネルギーは、20〜23%エネルギー前後の摂取について検証すべき課題が残されているというレビューの結論を踏まえた値で、報告書自身が「十分な科学的根拠はまだ得られていないものの」と断って置いています。
65歳以上では基準の向きが変わる
男性の推奨量は、65歳を境に65gから60gへ下がります。一方で目標量の下限は15%エネルギーに上がります。グラムが減って比率が増えるのは、算定の土台が違うためです。推奨量は参照体重から計算され、目標量は総エネルギーに対する比率で表されます。高齢期は参照体重も推定エネルギー必要量も下がるため、同じグラム数でも比率としては大きくなります。
下限が15%になった経緯も書かれています。65歳以上について、推奨量より多めの1.2 g/kg体重/日以上を摂取するほうがフレイルおよびサルコペニアの発症を予防できる可能性があると考えられる、とされ、この量を%エネルギーに換算した14.9〜16.6%から15%が導かれています。ただし同じ報告書は、フレイルを改善させるためのたんぱく質摂取量について結論を出すことは難しいとも書いています。
表には、必要エネルギー摂取量が低い人では比率の下限が推奨量を下回ることがあり得るが、その場合でも下限は推奨量以上とすることが望ましい、という注記も添えられています。比率と実量が食い違うときは実量を下回らせない、という整理です。
自分のグラム数は、記録しないと出てこない
ここまでの数字はすべて基準値です。たんぱく質は肉や魚だけでなくご飯にもパンにも牛乳にも含まれるので、1日分を足し合わせて初めて、65gに届いていないのか100gを超えているのかがわかります。%エネルギーで見るには同じ日の総カロリーも必要です(その出し方は推定エネルギー必要量の記事にまとめています)。
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推定に誤差はあります。写真から肉の重量を1g単位で当てることはできません。それでも、40g台で推移しているのか80g前後なのかという水準は見えます。基準が原典で決まっていても、自分の数字がなければ比べようがありません。
参考
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 — https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
- 同報告書 たんぱく質の項 — https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316462.pdf
- 同報告書 エネルギー産生栄養素バランスの項 — https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316465.pdf
この記事は一般的な栄養情報の解説です。報告書も、特定の疾患の管理を目的としてたんぱく質摂取量の制限や多量摂取が必要な場合は、目標量ではなくそちらを優先すべきだとしています。特定の疾患の治療や食事療法については、医師や管理栄養士にご相談ください。
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